濤声
唐招提寺御影堂 第1期障壁画
《濤声(とうせい) 唐招提寺御影堂 第1期障壁画》1975(昭和50)年制作・東山魁夷 67歳/紙本・彩色 襖16面/唐招提寺
白い泡のアラベスク
輪島の西の町はずれから見ると、彎曲した浜辺に打ち寄せる波を斜めに眺めることが出来る。つまり、私が描こうとしている障壁画の構想に似た状態であるのに気付いた。沖の方から白い弧線を描いて進んで来る波の列が、まるで気を合わせているかのように、波頭を連ねて、寄せて来る。中には処処、早めに波頭が崩れて列が乱れるのもあるが、何段かになって渚に届くと、先頭の列が力尽きたかのように足踏みをし、ためらいながら引き返そうとする。
その瞬間、白い泡のアラベスクが華やかに浮かび上がる。もう、次の列が寄せてきて交替する。その売り返しは飽きない眺めである。海の色も、この季節と天候によって私の望んでいた色調であるのも嬉しい。青でも緑でもなく、日本画の絵の具で言う。錆群緑のような落ち着いた感じである。
『日本の美を求めて/講談社』