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光昏

《光昏 》1955(昭和30)年制作・東山魁夷 47歳
紙本・彩色 181.7cm×136.4cm/日本藝術院会館 蔵

 

黒姫山秋景

 昭和三〇年の第十一回日展出品作《光昏》は、《晩照》の重厚な表現を、さらに日本古来の装飾的要素との結合の上に成立させようと試みた作品である。
 この時も、出来上がった作品とは、構図、色調、形式の全く違う一枚のスケッチから生まれている。その時から二、三年前の頃、野尻湖畔のホテルに泊まって写生をした中に、湖をへだてて黒姫山を望んだ風景があった。秋の盛りで空も山も水も明るく、まるで絵葉書にでもあるような平凡なものであった。私はその時の」スケッチから二、三の制作はしていたが、この構図や色彩ではものにならないと思って、見向きもしないでいた。
 ある時、何気なくこのスケッチを眺めていると、突然、違う風景となって浮かんで来た。竪長の画面の空を金色に、黒姫山を逆行の紫金色にして、真黒な湖を近景の樹木の渋みのある紅葉で挟んだ構図である。すると、まるで古い能衣装を見るような、重厚な色彩を持つ風景に変わったのである。『東山魁夷代表作十二選/集英社』

 


 

野尻湖から見た黒姫山の秋景である。はじめ湖畔の宿からこの風景を見た時は、雲も湖も青く、全く絵はがき式の風景で、これが絵になるとは思わなかった。ふと夕暮れの暗さの中に湖を黒く感じることによって、瞑想的な構想が浮かんできた。すると空の金、暗紫色の山、淡い紅葉の色と、その配色が一瞬に浮かび上がった。この作品では装飾風な効果と荘厳な実感を両立させたいと試みた。前方の樹木は野尻湖のでは物足りないので、箱根姥子での写生を取り入れて構図したのである。写生はたんねんにしたが、制作にあたっては細部を省略して大きな色面によって構成した。これは昭和三十年度の芸術学院賞を受け、芸術院会館に所蔵されている。『日経ポケットギャラリー「東山魁夷」/日経新聞社

東山魁夷主要作品