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黄山雨過

《黄山雨過》1978(昭和53)年制作・東山魁夷70歳
紙本・彩色 129.0cm×162.0cm/長野県立美術館・東山魁夷館 蔵

 

雨過に現わる神仙峡

 私の印象を一言で表せば、悠々とした大地の広さから生まれる雄大な風景と、大陸性の風土の持つ厳しさである。例えば桂林から陽朔に至る漓江の六時間の船旅は、次々に現れては去る奇峰の連続に、驚嘆の声をあげずにはいられない。しかも山は黙々として聳え、河は悠然として流れている。また、黄山に旅した人は雲中に現れては消え去る岩峰を眺めて、古来の中国水墨画の風景が、実際に存在していることに驚き、岩と松と雲による崇高な美に心を打たれるであろう。岩も松も厳しい星霜に耐えた凛乎とした姿勢を示している。『中国風景の美/東方書店』


 中国安徽省の南部にある黄山は、中国では数々の名山の中でも最高であると昔から言い伝えられてきました。
 私は第二期唐招提寺障壁画の題材の中に、ぜひ黄山を描きたいと念願していましたが、中国側では登山路が嶮しく、まだ宿泊設備が整っていないからという理由で、なかなか案内してくれませんでした。幸い昭和五十三年に私の希望を受け入れ、待望の黄山に登ることができました。
 黄山は一つの山ではなく七十二の峰のある広い範囲にわたる山岳の集まりの名称です。すべて岩山ですので道は急な石段の連続なのです。登山の第一日目は雨降りで霧があたりに立ちこめて、その中を一歩一歩石段を登って行くのは容易ではありませんでした。登るにつれ雨が止み、霧の中から松の生えた岩山が現れては消える有様は、名山の名にふさわしい神秘的な景観でした。
東山魁夷館所蔵作品集Ⅰ/信濃新聞社


 私は今後、私の水墨画の世界を深めて行きたいと思っている。それは際限のない道であるが、しかし、私には色彩を捨てる気持ちはない。それどころか、水墨に打ち込むことは、不思議なことに色彩の魅力を、いっそう強く私自身に感じさせることになりそうだ。『水墨画の世界—中国への旅—/新潮社

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