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揚州薫風
唐招提寺御影堂 第2期障壁画

《揚州薫風 唐招提寺御影堂 第2期障壁画「松の間」》1980(昭和55)年制作・東山魁夷 72歳/紙本・墨画 襖26面/唐招提寺

 

和上に送る故郷揚州の風

 中央のお厨子の安置された部屋の、宸殿の間に接する襖は大小八面であり、したがってお厨子の和上像は、この面に相対しておられる。この部屋は三つの部屋の中で一番広く、しかも、ぐるりと四方を二十六面の襖で取り囲まれている。そこで、私はこの部屋全体を揚州の名勝である西湖に見立てて、湖の岸、あるいは湖中の島にお堂があり、その中にお厨子が安置されている想定の下に構図を考えた。 つまり、鑑真和上は、故郷揚州の柳の老樹が風にそよぐ美しい湖の風景に囲まれて坐っておられるのである。お厨子のすぐ背後に大きな柳が、十面の襖いっぱいに枝を広げている。お厨子の正面に当たる大小八面の襖は、中程に小さな島を浮かべた湖が広々と見渡される。左右の四面ずつの襖には、一方にはやや近く岸辺の柳、それに向かい合う襖のほうは最も遠い対岸の風景にした。
 お厨子の正面の八面は、四枚建、二枚建、二枚建と二本の柱で区切られている。その中央の二枚建が、開山忌の時は外されて、宸殿のほうから、お厨子を拝むことになる。この二面には、向こう岸に遠景として現在、痩西湖にある五亭橋と、その傍らの建物の一部が見えている。これは、勿論、唐時代のものではないが、この湖の景観を表すのに役立つと思われる。湖面を渡る風に、垂柳が揺れて和上の尊像に、懐しい故郷の風をお送りしたい念願による構図である
東山魁夷自選画文集/水墨の魅力

東山魁夷主要作品