水郷の揚州
峨峨なる黄山
奇峰の桂林
第二期御影堂障壁画
揚州・黄山・桂林 三者三様の景趣
唐招提寺御影堂の襖絵として、最初から心に浮かんでいたのは、まず中央の部屋に揚州を、その左右の部屋には、それぞれ黄山と桂林を描く構想である。
中央の部屋には鑑真和上の尊像を祀るお厨子があるから、どうしても、ここには和上の故郷、揚州を描くべきである。また、日本からの留学僧、栄叡と普照が、はるばる和上を訪ね、日本への渡航を願い出たのもこの地である。
揚州は、揚子江の河口近くに在り、代表的な水郷風景。それに対して黄山は峨峨とした岩山に、松樹が繁り、常に去来する白雲を伴って北宋水墨画に見るような厳しい風景を呈している。一方、桂林は奇峰と水流による湿潤な南画的山水の典型と言える。この三者三様の景趣によって、中国の風景美を象徴することができると思った。
千二百年を越える昔、足かけ十二年に及ぶ航海の辛苦を克服して、日本と中国を文化の上で結んだ和上へ捧げる障壁画は、日中両国の風景を、精神性の顕現として描くことによって、初めて意義が達成されると考えたのである。
—「唐招提寺障壁画第二期制作について」東山魁夷—
第二期御影堂障壁画
帰することなき故国の風景 1980(昭和55)年 | ||
松の間 揚州薫風 | 鑑真和上の故郷、揚子江の河口にみる水郷風景 | 紙本彩色・襖26面 |
梅の間 桂林月宵 | 奇峰と水流の南画的山水 | 紙本彩色・襖8面 |
桜の間 黄山暁雲 | 峨峨なる岩山、松樹、白雲の巌なる北宋水墨画 | 紙本彩色・襖8面 |
厨子扉絵
厨子扉絵 瑞 | 辛苦の旅の終着地、薩摩秋目浦 1981(昭和56)年 | 紙本彩色・3面 |
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