東山魁夷記念一般財団法人

幽玄なる景趣
山雲 濤声

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第一期御影堂障壁画

盲しいた和上に捧げる日本の絶景《山雲》《濤声(とうせい)》

 日本の湿潤な気候は霧や霞を伴い易く、大陸性の乾燥した空気の中で見る鮮明さとは違い、抑制された柔らかみのある独特な色彩が生まれるのである。多彩と淡白、華麗と幽玄という対蹠的な性格を併有し、きめこまやかで味わい深いという点で、世界にも比類のない風景と言える。
 最近完成した唐招提寺御影堂の障壁画にも、上段の間に山を、宸殿(しんでん)の間には海を描いた。
この場合にも青森県から山口県に至る日本海岸を旅し、太平洋岸にも、三陸海岸、房総、高知と広く写生して歩いた。やはり「日本海」を描こうとしたのであるが、(御所)新宮殿の波の壁画とはかなり違った手法と表現になった。この場合も、群青と緑青であっても、分子の細かいものを選び、生のままではなく、淡い色調にした。

 
障壁画は、その置かれる場所の性格、建築の様式に調和することを考えて描くべきだから、同じような波と岩の題材によっても、その表現が異なったものになるのは当然である。また、この二つの仕事の間には、七年の歳月が流れていて、私自身の心の遍歴が大きく作用していることも確かである。

 私は以前から、日本の自然の持つ色彩の一方の面である幽玄な景趣を、大作に生かしたいと思っていた。今度の障壁画(唐招提寺)、特に上段の間の「山雲」は、ほとんど墨絵の色調で描いたものである。
〈東山魁夷『日本の美を求めて/講談社』〉

第一期障壁画

和上に捧げる日本の心象風景 1975(昭和50)年制作

宸殿の間 濤声

厳かなる濤(おおなみ)の声 北陸能登海岸は白泡のアラベスク

紙本彩色・襖16面

上段の間 山雲

立ち上る奥飛騨路の山雲は千変万化の幽玄なる景趣

紙本彩色・襖10面、床貼付