映象
《映象》1962(昭和37)年制作・東山魁夷 54歳
紙本・彩色 147.5cm×211.5cm/東京国立近代美術館蔵
自然の清澄な深さ
美しく、寂しく、きびしい風景を見ることは、こんどの北欧旅行の最初からの目的であって、幸いにも、私の希望はかなえられた。しかし、その上に人々の美しい生活を見たことは、思いがけない喜びであった。デンマークをはじめ、スェーデン、ノルウェー、フィンランドの国々を巡って、私が見た光景、町、人々の姿が浮かんできた。海の風、橅の森、麦畑、尖塔の立ちならぶ渋い色彩の都会、古風な遊園地、古い家並み、石畳の道、花のある窓辺、こうのとりの巣、湖、白樺と樅の森、雪に蔽われた山々、真夜中の太陽、断崖から落ちる滝、小さい清潔な町、市庁舎のある広場、朝の市場、湖を巡る船、村、牧草の丘、到る処で会った素朴で善意に満ちた人々、白夜‥‥‥それらは、すべて珍しいものというものではなく、私には久しい前から心の中に在ったもので、いわば、喪った故郷を求めるように、長い間、その影像を抱きつづけてきたものである。『風景との対話/新潮社』
山かげの暗い湖。冬木立がそのままの影を映す。
画面を中央で一直線に切って、実像と虚像の対象を描いた。北欧での旅で見た自然の清澄(せいちょう)な深さに心をかたむけて、そのきびしい静けさを描こうとした。『画集東山魁夷/三彩社』