冬の旅
《冬の旅》1989(平成元)年制作・東山魁夷81歳
紙本・彩色 110.0cm×162.0cm/長野県立美術館・東山魁夷館 蔵
私の冬の旅路
冬の旅のイメージを、さりげない雪景に託して描いた作品。
暮れなずむ茜音色を帯びた雪面を、広く中央に据えて、それを樹木の配置で取り囲む構図にした。
『東山魁夷自選画文集 5.自然への賛歌/新潮社』
平成元年の日展の出品画を描いていた時のことです。私は題名を何とつけようかといろいろ考えました。
この絵は、構図の上では少し苦労しましたが、別に特色のある風景ではなく、ごく普通の雪景色ですから、ふさわしい題名が浮かんでこなかったのです。
それで、私はなぜ、この風景を描こうと思ったのか、と自分の心に聞いてみました。すると丁度、十年前に作ったリトグラフィ集「冬の詩」を思い出しました。その時の序文に私は短い詩を書いたのです。
「私の旅も冬となった。透き徹った空気の中に 冴え冴えと 大地のいのちを見る」
「冬の旅」なるほど、人生を季節に譬えれば私の旅はまさに冬の旅路であります。清らかに澄んだ空気の中に大地のいのちの表れを見たいとの私の願いを絵画として描いたのが、この雪景色となっていることに気が付きました。
『東山魁夷館所蔵作品集Ⅰ/信濃新聞社』